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スメサースト文子さんインタビュー

キズナ・アクロス・カルチャーズ 代表

スメサースト文子さん
キズナ・アクロス・カルチャーズ
代表 スメサースト文子さん
キズナ・アクロス・カルチャーズ
代表 スメサースト文子さん

日米の若者の懸け橋となる「グローバル・クラスメート」

グローバル・クラスメート」(Global Classmates)は、日本とアメリカの高校生を結びつけるオンラインの文化・言語交流プログラムだ。このプログラムは、スメサースト文子さんが共同設立者であり、事務局長を務める非営利団体キズナ・アクロス・カルチャーズ(KAC)によって運営されている。スメサーストさんのリーダーシップの下で、グローバル・クラスメートは、日本語と英語の二か国語による対話と異文化コラボレーションを通して、グローバルな意識を持った若者を育成している。この記事では、スメサーストさんにグローバル・クラスメートの使命、成り立ち、そして発展について振り返ってもらうとともに、参加した教師や生徒たちの視点も紹介する。

取材・執筆:橘高ルイーズ・ジョージ

スメサーストさんは、神戸と大阪の中間に位置する芦屋で育ち、後の異文化交流事業への道筋を形成するいくつもの国際交流事業の運営に携わった。京都の立命館大学で国際関係を学び、卒業後は、プロクター&ギャンブル社(日本法人)の神戸本社の人事部門に勤務した。

スメサーストさんは、当時を次のように振り返る。「会社では、英語が堪能な外国人社員が何人もいて、彼らが謙虚さを保ちながらも、自分の成果をうまくアピールしていることに啓発されました。『これがグローバル・スタンダードなんだ。』と感じました。そして、英語だけでなく、コミュニケーション能力も重要なことに気づきました。日本人がグローバル社会で自分たちの強みを最大限に活かすためには、まさにコミュニケーション能力が必要なのです。」

スメサーストさんは、アメリカ人と結婚後、2007年にワシントンD.C.に引っ越し、現地の日本大使館で、JETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Program)のコーディネーターを務めた。JETプログラムは、日本政府が主催し、日本の地方自治体と協力して運営されており、アメリカから大学の卒業生を日本に招き、外国語教育や国際交流活動に参加してもらう取り組みだ。

草の根レベルでのグローバル社会へのアプローチ

2011年3月11日、東日本大震災は東北地方の多くの地域に壊滅的な被害をもたらした。スメサーストさんは、アメリカの人々(多くはJETプログラムのアラムナイ)の寛大さに心を打たれ、すぐに募金活動を始めた。アメリカ人の行動に感銘を受け、スメサーストさんは自分と自分の仲間たちで何ができるかを考えた。

彼女はこう語る。「東北の高校と、日本語履修プログラムを持つアメリカの高校とのオンライン交流プログラムというアイデアを思いつきました。宮城県の石巻市の高校とバージニア州ラングレイの高校の間で、オンライン交流の試験的なプログラムを開始したんです。」

最初の交流は2012年に行われた。目的は直接的な災害支援ではなく、東北地方の若者が海外旅行に行けない状況下で、異文化交流のための有意義な機会を創出することだった。これが、スメサーストさんが友人のシャンティ・ショージさん、タケザワ・ノリタカさん、アンドリュー・スクロンスさんと共同で設立した非営利団体「キズナ・アクロス・カルチャーズ(KAC)」発足のきっかけとなった。こうして生まれた交流は、KACの代表的なプログラムである「グローバル・クラスメート」へと発展した。

現在、「グローバル・クラスメート」は、日本とアメリカの約80校が毎年6ヶ月間、2,000人以上の生徒と交流するオンライン交流プログラムへと成長している。各学校は1対1でペアになり、KACのバイリンガル・コーディネーターが教師と緊密に連携して、各交流を支援している。候補校の選定にあたっては、地理的に幅広い範囲の生徒が参加できるよう細心の注意を払っている。

グローバル・クラスメートに参加する日米の生徒の写真
グローバル・クラスメートに参加する日米の生徒の皆さん
グローバル・クラスメートに参加する日米の生徒の皆さん

カリキュラムは、文化理解、協働的な言語学習、そして国際的な友情という3つの柱に基づいている。自己紹介で終わることが多いカジュアルなオンライン・チャットとは異なり、グローバル・クラスメートは、より広範な問題について、より深く豊かな議論をするために必要な親密さと信頼関係を育むことを目的とする。

「私たちは表面的な交流や経験の創出に留まりたくないんです。深い対話と真の絆が生まれるようなプログラムを設計し、運営することに常に注力してきました。」とスメサーストさんは語る。こうした取り組みは、海外旅行の機会が限られている地方の日本人高校生にとって特に意義深い。教室に広い世界を取り込むことができるからだ。

共通の目標に向けた協力体制

KACは、プログラム運営のために、スリムながらも効果的な体制を維持している。4~5名からなるコアチームが運営を調整し、バイリンガル・コーディネーター、インターン、ボランティアがサポートする。毎年、日本とアメリカで約20名がファシリテーターを務める。

プログラムの成功には、教師の献身的な協力が不可欠だ。日本では英語教師であることが多いのに対し、アメリカでは日本語教師であることがほとんどだ。「現代において、教師の役割は知識の提供者から習びのファシリテーターへと進化していると思います。私たちのプログラムはまさにこの変化に合致しています。私たちは、有意義な経験を提供したいと願う教師と協力したいと考えています。」とスメサーストさんは言う。

教師の写真
教師はグローバル・クラスメートの成功に不可欠な存在だ。
教師はグローバル・クラスメートの成功に不可欠な存在だ。

ニュー・ジャージー州デマレスト市のノーザン・バレイ・リージョナル・ハイスクールで日本語教師を務めるビル・パリスさんは、2020年からグローバル・クラスメートに関わっている。彼は、日本のコーディネーターとの円滑な連携を可能にし、生徒と教師の双方に有益な異文化学習を促進する、献身的なコーディネーターのサポートに感謝している。

「グローバル・クラスメートへの参加を通して、私はアメリカと日本の高校生の間で有意義で真摯な対話を促進する、文化の架け橋の立場にあります。グローバル・クラスメートの柔軟で体系的なバイリンガル交流カリキュラムを通して、既存の業務量に負担をかけることなく、グローバル学習を通常の授業に組み込むことができるのです。」と彼は言う。

岡山県の岡山後楽館高等学校の英語教師、大森真由美さんもこの意見に賛同する。「プログラムのルールの一つ、つまり先生たちもパートナー校とコーディネーターに2日以内に返信するというルールが、交流の質を大きく向上させました。関係者全員の間で円滑なコミュニケーションを維持することがいかに重要か、改めて実感しました。」と彼女は言う。「プログラムを通して生徒たちが成長していく姿を見ることで、私自身の専門家としての成長を振り返り、教育者としての使命感を再認識することができました。」

グローバル・クラスメ―トは、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が教室におけるテクノロジーの普及を加速させるずっと前から、リモートアクセスのモデルの導入において先駆的な存在だった。その結果、パンデミックによって世界中の教育が混乱に陥った際も、キズナ・アクロス・カルチャーズのチームはスムーズに対応できたのだ。このプログラムは、将来の英語教育の設計図の青写真となる可能性を秘めていることから日本政府からも注目を集めている。

「オンライン・プラットフォームのプログラムは、戦略的に企画を立て、万全の態勢で実施すれば、真に意義深い、画期的な体験を提供できます。それが私たちの強みであり、私たちを他に類を見ない存在にしていると考えています。今日でも、私たちは日本で高校生向けの国際オンライン交流プログラムを提供する最大の機関であり続けています。」とスメサーストさんは語る。

お互いの意見を傾聴する場づくりの大切さ

グローバル・クラスメートのもう一つの目標は、「異文化間能力」の育成だ。これは、相手の前提を認識し、誤解を解き、相互尊重を育むことで、多様な背景を持つ人々と効果的にコミュニケーションを取り、協力する能力である。「リージョナル・コンピテンス」と呼ばれることもあるこの能力は、今日の相互につながった世界で若者が成長していくために不可欠なスキルであるとキズナ・アクロス・カルチャーズでは考えている。

日本チーム
高校生チーム
異文化交流の主役:日本(左)とアメリカの高校生チーム
異文化交流の主役:日本(上)とアメリカの高校生チーム

お互いのコミュニケーション・スタイルに適合することで、プログラムに参加する両国の生徒たちが異文化間能力をどのように伸ばしているかが分かる。例えば、日本の高校生にとって英語の学習は必修ですが、多くの生徒は英語で話すことにためらいを感じ、特に知らない人と話す際には間違いを恐れる。これは、新潟県立高等学校の菅原椎愛さんの場合も同様だった。

「初めは『これで通じるかな、そもそも興味持ってもらえるかな』と不安だったけれど、伝えようとする気持ちと自信を持てば相手も理解しようとしてくれることに気づきました。」と菅原さんは振り返る。「英語と日本語の両方を使いながらコミュニケーションすることで、英語の感覚が伸びていくのを実感でき、自分の表現力が高まるのも面白かったです。こうしたやりとりを通して、相手との距離が縮まっていくのを感じました。」

日本語を学ぶアメリカ人生徒のほとんどは、言語と日本文化への純粋な興味から学んでいる。限られた能力にもかかわらず、プログラムに参加する学生は日本語を試してみたいという意欲に満ちており、それが日本人の参加者に対して、間違いを恐れずに心を開こうという気持ちにつながる。このダイナミックなプロセスは、双方の障壁を打ち破り、自信を育むのに役立つ。

スメサーストさんは、この交流を通して、アメリカ人生徒が日本人学生と英語で話す際のコミュニケーション・スタイルがどのように変化していくかを見守った。「アメリカ人の生徒たちが、日本人の生徒たちが意見を表現するための時間を確保し、日本人の生徒たちが自分たちの主張が明確になり、自信につながるような場づくりをしてくれたことは素晴らしいと感じました。より広い意味で、これは今日の多くの若者が渇望する『包括性』と『つながり』という価値観を反映しているように思えるのです。」

グローバル・クラスメート・サミット

2017年には、グローバル・クラスメートの発展をベースに、「グローバル・クラスメート・サミット」が生まれた。このサミットでは対面式の要素が取り入れられ、選ばれた参加者にリーダーシップ・スキルをさらに磨く機会が提供された。2020年にパンデミックが始まって以来オンラインで行われてきたが、この夏に、6年ぶりにワシントンD.C.で対面で開催された。

グローバル・クラスメート・サミットの参加者
2025年のグローバル・クラスメート・サミットの参加者(ワシントンDCにて)
2025年のグローバル・クラスメート・サミットの参加者(ワシントンDCにて)

昨年、キズナ・アクロス・カルチャーズのオンライン交流プログラムに参加した2,200人の高校生の中から、日本とアメリカからそれぞれ7人ずつ、計14人の高校生が10日間のサミットに参加した。彼らは日米関係のリーダーたちと交流し、外交、ビジネス、AIといった分野の国際的な専門家が主導するワークショップに参加して将来のビジョンを描き、仲間との学習体験を通して、異文化コラボレーションを促進するチームビルディング活動に参加した。

東芝国際交流財団は、2018年からグローバル・クラスメートを、2021年からはサミットを助成している。グローバル・クラスメートの過去の参加者の中にはメンターとして戻ってくる人もおり、プログラムが持続的な効果を生み出す継続的な参画のサイクルも生まれている。

「グローバル・サミットを通して、日本の若者文化への理解を深めることができました。オンラインや授業で学ぶのは、大人の文化であり、その国に対する一般的な見方です。日本の生徒たちの話を聞くことで、彼らの個人的な文化を率直に知ることができました。」と、ネバダ州ヘンダーソンのコロナド高校の生徒として参加したローガン・ボルカ―さんは言う。彼は2025年のグローバル・クラスメート・サミットの参加者の一人だった。

ワークショップに参加する参加者
ワシントンDCでのワークショップに参加する2025年のサミット参加者たち
ワシントンDCでのワークショップに参加する2025年のサミット参加者たち

「このプログラムのおかげで、大学に進学してからも、日本語の勉強を続けようと思いました。副次課程として日本語を学ぶ予定です。交換留学の大切さも学び、留学も考えています。」とボルカ―さんは付け加える。大学1年生になったばかりの彼は、将来、エンジニアリング分野で日本とアメリカの架け橋となり、日米関係に貢献したいと考えている。

異文化理解の未来へ

参加後のフォローアップ調査によると、グローバル・クラスメートを修了した生徒の80%以上が、留学への強い意欲を持っている。この経験は語学学習にとどまらず、異文化への意識を高め、より深く理解したいという意欲を育む。

「プログラムの後半で、生徒たちが社会問題に取り組んだ時、批判的思考力が大きく成長し、地域社会への貢献意識と異文化間の協働能力が育まれました。また、生徒たちは、教科書には載っていない『生きた英語』に触れることで、自分の意見を表現することに自信を持つようになりました。」と、岡山の大森先生は言う。

グローバル・クラスメイトの様子
グローバル・クラスメートでは、参加者は身近な話題を超えて、
より深い、多様な視点からの議論に進んでいく。
グローバル・クラスメートでは、参加者は身近な話題を超えて、より深い、多様な視点からの議論に進んでいく。

前述のパリス先生も、ニュー・ジャージー州の生徒たちも同じような経験をしている、と言う。「学業だけでなく、生徒たちは異文化コミュニケーション、コラボレーション、批判的思考といったグローバル人材に必須の能力を身につけ、人間的に成長し、より自信を持ち、物ごとへの好奇心とグローバルな意識を持つようになります。生徒たちは、日本語の授業で最も楽しかった経験の一つとして、グローバル・クラスメートを挙げています!」

地政学的・文化的な結節点が絶えず変化する中で、異文化理解はこれまで以上に重要になっていると言えるだろう。アメリカと日本の学校では、グローバル・クラスメートに参加する生徒が異文化を尊重する考え方を育み、様々な形で花開く可能性のある種まきをしている。

新潟県立高校の菅原さんはこの点についてこう語る。「将来どんな仕事に就くにしても、広い視野を持ち、柔軟性を持ち、異なる視点にオープンであり続けたいです。グローバル・クラスメートの経験は、まさにそのような理解の基盤を与えてくれたと感じています。」

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